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その17 「束の間付き合い」

イメージ「良い気候になりましたね」
つい先日、妙齢のご婦人から声がかかった。
渋谷から横浜へ向かう東横線の電車の中。
隣り合わせに座ったとたんだった。
思わずこたえた。
「そうですね。もうコートも要りませんね」

全く見ず知らずの方である。
買い物帰りらしい。声が無類に明るい。
あまり派手でもなく、それでいておしゃれ。
色白で目がニコニコ笑っている。

話題は桜の開花が早かった、
しかし、その割に気温が低めだったので長く楽しめた、
など、たわいのない話。
それでも束の間、心がポッと温かくなった。

刃物を持って若者が商店街をのし歩いたり、親ですら子供を殺めてしまう、そんな物騒な世の中ではいつどんな危害を加えられるかわからない。
何んとなく緊張気味だったせいかもしれない。

江戸の人々は見知らぬ人も仏の化身と考えた。
たまたま渡し船に乗り合わせたり、
店先で顔を合わせると、和やかに軽く挨拶を交わした。
ただし、名前や職業などは聞かない。

袖振りあうも何かの縁ともいう。
せっかく、居合わせたのだから一時を大事に。
まさに束の間付き合いが上手だった。
人間関係を円滑にする大人の知恵に違いない。

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