シリーズ 江戸しぐさの誕生とその系譜【上】

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「江戸っ子と町人文化」(第1~11話)

「大人たちは、なぜ、こんなすばらしい『江戸しぐさ』が日本にあったことを今まで教えてくれなかったんですか」。

『江戸の繁盛しぐさ』(日本経済新聞社)の著者で、NPO法人江戸しぐさ理事長の越川禮子さんは、中学校の生徒たちを前に講演した折、こんな質問を受けたことがある。子供たちの鋭い感性に感激するとともに、江戸しぐさの語り部という使命を改めて感じたという。

江戸の大商人たちが育んだ「江戸しぐさ」は、自然を大切にし、円満な人間関係を維持し、異文化と共生する知恵である。江戸しぐさを身につければ、周りの人たちを幸せにし、笑顔が絶えない、しかも商売が繁盛する。京都や大阪など、上方商人が「勤勉」「始末」「世間に奉仕」をモットーとしたことと相通じるものがある。

大商人、いわゆる豪商は、経済の実権を握ってはいるが、建前にこだわる武士を相手に、上手に立ち回らざるを得なかった。難癖をつけられれば、いかように処分されても仕方がなかった。

しかし、やがて「単なる処世術」から「行動を伴った精神性の高い生活哲学」へと昇華することによって、江戸しぐさとして結実していったのだ。政治のリーダーである武士と経済の専門家として対等に接すると同時に、後継者育成に力を注いだ結果だ。

江戸しぐさは、いかにして生まれ、育っていったか。

「江戸っ子と町人文化」「背景にある思想と先人たち」「寺子屋から始まった実学」という三つの視点から考察してみる。

明治維新、第二次世界大戦、そして高度成長から平成バブルを経て失われた日本人の美徳や特性を求めて、今、江戸を見直す動きが急浮上している。この15年余り、進めてきた「江戸しぐさ」の掘り起こし、普及活動が、なぜ子供から大人まで幅広く共感を呼んでいるのか、ご理解いただけるに違いない。

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